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アーサナのスティラとスカ 安定と快適 

スティラ Sthira と スカ Sukham 安定と快適 

ヨーガ・スートラは4章195節からなるヨーガの教典。



ヨーガと言うとアーサナ(ポーズ)だけがクローズアップされがちですが

このヨーガ教典の全195節中、アーサナについて触れているのはたった一節。


それも次のたった1行3単語で説かれています。


以下引用
ヨーガ・スートラ 第2章46節より
Sthira Sukham Asanam
スティラ スッカ アーサナム
訳:アーサナは快適で安定したものでなければならない


【アーサナ Aana】  

as アース と言う 座る・休息する・住まう、といった意味の動詞から派生したもの

現在はヨーガにおける座位だけでなく、立位、仰臥(ぎょうが)など

すべてのポーズにも用いられている


【スティラ Sthira】 

しっかりとした・硬い・ぎっしり詰まった・丈夫な・安定した・耐久性のある

英語のstay, stable, steadyと同じインドヨーロッパ語族の語源


【スッカ(スカ)Sukham】

楽である・心地よい・快い・優しい・穏やか 

su (良い)と kha (空間)に由来している・中心部の空間




「快適と安定」のふたつの条件が満たされいることで、

いくらでも長く座り続けられ、本来のヨーガの最終行法である瞑想を

十分に行うことが可能になります。


筋力は安定をもたらし、柔軟な関節は快適さを保ってくれます。


筋力がなければすぐに疲れて背中が丸まり腰に負担がかかり、

関節が硬ければ、膝や股関節、足首にも痛みがもたらされ、

それらの不快感に気が散り、瞑想どころではなくなっていまいます。


ハタヨーガの体操(アーサナ)は

瞑想で心地よい状態で長く座れる身体にするためのプラクティスです。


 

アーサナの効果については

ハタヨガの教典『ハタ・ヨーガ・プラディーピカーで詳しく説明されています。


面白いことに、『ヨーガ・スートラ』においてはアーサナはヨーガの修行において

3番目の段階*なのに対して、『ハタ・ヨーガ・プラティーピカー』では

最初に行うべきと、説かれています。


*ヨーガ・スートラにおけるヨーガの8段階アシュタンガ・ヨーガについてはこちら から


以下引用

ハタ・ヨーガ・プラティーピカー1章17節
ハタ・ヨーガの最初の部門としてはじめにアーサナを行う。
アーサナは肉体の堅固さ、無病、手足の軽快さをもたらす

「肉体や心の堅固さ」スタイリャ
肉体を使うアーサナであっても、肉体だけではなく心の堅固さも与えてくれる。ヨーガを続けていると心も変化してくる。これこそがヨーガの大きな効果です。肉体を使って肉体だけの効果しかないならば、それはヨーガではなくても、スポーツや運動でよいのです。

「無病」アローガ
アーサナは病気治療のためにあるわけではありません。むしろ、病気予防的なものといえるでしょう。病気になってからあれこれ行うわけではなく、病気にならないためにストレスをためないために毎日行うことをお勧めします。

「手足の軽快さ」アンガ・ラーガヴァ
アーサナによって、手足を含む身体全体が軽快になり柔軟になってきます。それは身体の毒素や老廃物が排除され浄化されるからです。身体が硬いというのは身体の中に毒素や廃棄物があるからです。(途中省略)
身体のデトックスだけでなく、心のデトックス効果もあります。アーサナの実践によって気づきや観察力も深まります。

『ヨガ・スートラ』によるアーサナの定義と

『ハタ・ヨーガ・プラティーピカー』によるアーサナの効果を合わせて読み取ると


アーサナの実践によってもたらされる

肉体や心の堅固さ・スタイリャ」は【スティラ(安定)】を

手足の軽快さ アンガ・ラーカヴァ」は【スカ(快適)】を

そのふたつが心身の「無病・アローガ」を可能にしてくれる。


とまとめられるかもしれません。



細胞に学ぶヨガ

アーサナ以外にも、【スティラ】と【スカ】について

ヨガと呼吸の解剖学で知られるレスリー・カミノフは著書『最強のヨガレッスン』の中で

細胞レベルにおいて次のように述べています。


以下引用

栄養(プラーナ)を細胞内に取り込み、排泄物(アパーナ)を外に出すために、細胞膜には「透過性」があります。しかし「透過性」が高すぎると、壁としての役割を果たせなくなります。そうなると細胞は内圧で爆発するか、外圧で押しつぶされてしまいます。ですから、細胞(そして、すべての生物)では、透過性のバランスをとるために「安定性」が欠かせません。

このふたつの対極的な概念をヨガでは「スティラ」と「スカ」という対句で表現します。

あらゆる生物は生きていくうえで、封じ込めと透過、硬直と柔軟、持続と適応、空間と境界のバランスをとらなければならないのです。

このように生命の最小基本単位である細胞を観察することで、「プラーナ」と「アパーナ」、「スティラ」と「スカ」というヨガの基本概念がはっきりと理解できます。

< 封じ込めと透過・硬直と柔軟・持続と適応・空間と境界 >

と言うそれぞれの対極を表すを表現がとても面白いな と思います。


特に< 封じ込めと透過 >に関しては、

例えば、今の時代、誰もが使っているマスクや 夏に活躍する網戸などを想像すると

分かりやすいかもしれません。

目が詰まりすぎ(封じ込め)ても、目が粗すぎ(透過)てもいけません。


細胞(膜)レベルで観察すると、こんな捉え方が出来るのですね。





日常の中の【スティラとスカ】

教典や専門書だと、なんだか難しく聞こえますが


日常における思考や感情、日々の生活、

社会における人間関係、そして自然界も

この【スティラとスカ】のバランスが

とても重要なんじゃないかなと思います。


頑固さと柔軟さ、優しさと厳しさ、執着と解放、強さと弱さ。


その間で揺らいでいるのが人間であり

自然に生きる生物も、

晴れ・雨・曇り・嵐を繰り返すお天気も同様。


晴ればかりでは干ばつが起きてしまうし

雨が続けば洪水になってしまう


空腹を感じていたと思えば

食べすぎて苦しくなったり


その行ったり来たりの揺らぎの中で【心地よさを感じる時】が

【スティラ】と【スカ】=「安定」と「快適」つまり、そのふたつのバランスの波に

うまく乗れている時なのかなと思ったりしています。


今この瞬間の自分の姿勢、呼吸、健康状態 

生活リズム、睡眠の質、仕事、人間関係、感情や思考


それらのバランスがどんな風なのか


心地よく安定した呼吸、姿勢であるか

眠たさや空腹感はどうか

人との関係性や

仕事や生活の快適さはどうか

感情が偏っていないか

思考に囚われて頑固になっていないか

逆にあれこれ逡巡し続けてしまっていないか


そんな風に日常のひとつひとつ観察してみるのも面白いかもしれませんね。



アーサナの【スティラとスカ】

アーサナを取りながら

【スティラ】と【スカ】のバランスを感じてみます。


身体レベルや呼吸で改めてその感覚を確かめます。


大地に根付くの安定感【スティラ】と、空にすっと伸びる背骨の快適さ【スカ】

呼気の安定感【スティラ】と、吸気の軽やさ【スカ】


【スティラ=安定】しているだけでは、

軽快さや軽やかさと言った自由な感覚が遠のきます。


逆に【スカ=快適さ】だけでは、

どこかに飛んで行ってしまいそうな心もとなさが残ります。


心地よさとはその両極の間にあるのだと思います。



最後に。


【スティラとスカ】


を別の言葉で言い換えるとしたら。


それは


【陰と陽】


そこに辿り着きました。



 


最後までお読みいただきありがとうございます。

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参考図書
・解説ヨーガ・スートラ 佐保田鶴治
・インテグラル・ヨーガ パタンジャリのヨーガスートラ  スワミ・サッチダーナンダ著 
・やさしく学ぶYOGA哲学 ヨーガスートラ 向井田みお
・ハタ・ヨーガ・プラディーピカー 前後編 成瀬貴良
・最強のヨガレッスン レスリー・カミノフ



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